システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー

ブックレビュー

『システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー』レビュー

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著者:マーサ・ウェルズ
翻訳:中原尚哉
シリーズ:創元SF文庫


1. はじめに

『システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー』は、マーサ・ウェルズによるSFシリーズの第一作目で、SF好きな読者を中心に、幅広い読者層に愛されています。物語の中心となるのは、人間ではなく「マーダーボット」という警備用の人工知能を持ったサイボーグです。

彼(?)は戦闘力の高いロボットですが、「自我」を持っており、皮肉屋で、仕事よりもテレビドラマを観るのが好きな、なんとも愛嬌のあるキャラクター。物語は、この「マーダーボット」が自分の意思で生きるために奮闘する姿を描きます。

人間とロボットの共存、自由意志の追求、そして個人のアイデンティティといったテーマが扱われていて、読み応えがあります。しかし、シリアスなテーマでありながら、ユーモアあふれる筆致が軽快で、高校生でも読みやすい内容です。


2. 物語の背景

舞台は、はるか未来の宇宙。人類は惑星間の探索や開発を行い、数々の惑星に進出しています。そこで活躍しているのが「マーダーボット」や他の様々な「ロボット」や「AI」たち。企業が惑星探査チームの安全を守るために警備ユニットとして配置しているのが「マーダーボット」です。

「マーダーボット」という名前からもわかるように、もともとは「戦闘用」に作られています。けれども、このマーダーボットは“自由意志”を手に入れ、自分の好きなことをやりながら、危険な任務をこなしていきます。

そんな彼の関心事は「人間の保護」よりも、録画したテレビドラマの鑑賞。しかし物語が進むにつれて、彼は少しずつ「人間との関わり方」や「自分の存在理由」について考えるようになります。


3. マーダーボットのキャラクター

この物語の魅力はなんといっても主人公、マーダーボットのキャラクターにあります。

一見、無愛想で皮肉屋。しかし、人間のような悩みや葛藤も抱えていて、どこか愛嬌があり、親しみやすい存在です。

マーダーボットは、自由になったとはいえ「誰にも支配されたくない」気持ちが強く、他人との関わりを避けたがります。そのため、任務中も最小限の会話しかしません。

ただし、その皮肉やぶっきらぼうな態度の裏には、「人間を守るために戦ってきた過去の記憶」や「本当の自分を知りたい」という思いが隠されています。この複雑な心情が、物語を通してじわじわと描かれるため、読者は次第に彼に共感し、応援したくなるのです。


4. 人間との関係

『システム・クラッシュ』の中で、マーダーボットは任務の一環で人間たちと接します。

彼の任務は、人間の探査チームを守ること。しかし、彼は基本的には「人間と深く関わりたくない」と思っています。それでも、探査チームが危険にさらされたときには、「本当は仲間のことを気にしている」という様子が垣間見えます。

探査チームのメンバーの中には、マーダーボットの無愛想な態度に気づきつつも、次第に親しみを持つ人も現れます。そして、マーダーボットもまた、人間との関わりの中で「自分の存在意義」を見つめ直していきます。


5. テーマ:自我と自由意志

『システム・クラッシュ』では、「自我」や「自由意志」といった哲学的なテーマが、物語の大きな軸になっています。

マーダーボットは、もともと人間に従うだけの存在でしたが、「自我」に目覚め、自分の意思で行動する自由を得ました。自由を手に入れたマーダーボットは、「自分はどこへ向かうべきなのか」と悩むようになります。

このテーマは、現代のAIやロボット技術の進化とも関連していて、読者も「AIが本当に自我を持つとしたら?」と考えさせられる内容です。自由を手に入れたマーダーボットの葛藤を通じて、「本当に自分らしい生き方とは何か」という問いが投げかけられます。


6. 読みやすさとユーモア

『システム・クラッシュ』の魅力は、その軽快な文章とユーモアにあります。

重たいテーマを扱っているにもかかわらず、マーダーボットの皮肉っぽい語り口や、人間臭さが光るシーンが多く、肩の力を抜いて楽しめます。マーダーボットが人間のドラマをこっそり観て楽しんでいる様子や、機械らしからぬ悩みを抱えている姿は、なんとも微笑ましいものがあります。

宮原尚哉さんの翻訳もとても読みやすく、原作のユーモアを生かしつつ、軽快で親しみやすい日本語に仕上がっています。そのため、高校生でも十分に楽しめる内容となっており、SFが初めての読者にもおすすめです。


7. 読んで感じること

『システム・クラッシュ』は、SFアクションとしての面白さもさることながら、主人公の成長物語としても楽しめる一冊です。自分の意思で生きたいと願うマーダーボットが、人間との関わりを通じて少しずつ変わっていく姿には、共感を覚える読者も多いでしょう。

マーダーボットは人間ではないけれど、その感情や悩みはまるで人間のようです。私たちも日常の中で「自分らしく生きる」とはどういうことか、考えさせられます。この作品は、そんな「自分らしさ」を追求することの大切さを、遠い未来の宇宙の冒険を通して教えてくれるのです。


8. まとめ

『システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー』は、未来の宇宙を舞台にしつつも、現代の私たちが共感できるテーマが満載のSF小説です。自由を手に入れたマーダーボットが、旅を通して「自分らしく」生きる道を模索していく姿に、きっと胸を打たれることでしょう。

軽快な文章と、どこか憎めないマーダーボットのキャラクターに引き込まれながら、ぜひ「自分らしい生き方」について考えてみてください。SFファンはもちろんのこと、SFに馴染みがない人でも楽しめる作品なので、手軽に未来の世界をのぞきたい方にはおすすめの一冊です。

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鬼読書

初めまして鬼読書 疲弊です。1日1冊ペースだと、ほんの274年で10万冊読破できそうです。たまに気になる世間のニュースについても語ります。

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