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書評:有吉佐和子『青い壷 新装版』

有吉佐和子の『青い壷』は、無名の陶芸家が生み出した一つの青磁の壷がさまざまな人々の手を渡り歩き、その人生に触れながら、十余年の時を経て再び作者と再会するまでを描いた連作短編集です。この青い壷は、ただの工芸品ではなく、人生の悲喜こもごもを映し出す鏡のような存在となり、読者に深い感銘を与えます。物語の舞台は日本から異国の地スペインにまで広がり、時代も戦後から現代まで幅広く描かれています。

本作では、青い壷を媒介にして人々の複雑な心理や人生の岐路が鮮やかに描かれ、読者に「人生とは何か」という普遍的な問いを投げかけます。以下、物語の概要、個々のエピソード、そして作品全体の魅力を詳しく掘り下げます。

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物語の概要と背景

『青い壷』は全13話で構成され、各話は青磁の壷を軸にして連なっています。陶芸家・省造が焼き上げた美しい青い壷は、さまざまな人々の手に渡り、彼らの生活に思わぬ影響を与えます。壷の持つ静かな美しさとともに、人々の内面が浮き彫りにされていきます。無名の陶芸家が偶然生み出した青磁の壷が、ただの器としてではなく、人生の転機や感情の触媒となるところにこの物語の妙があります。

省造自身は決して名を馳せた陶芸家ではありませんが、この壷が辿る軌跡は彼が思いもしなかった数奇なものとなります。壷が手元を離れ、贈られたり盗まれたりする中で、触れる人々の人生が壷を通じて交差し、やがてスペインの地にまで届きます。その間に描かれるのは、老夫婦の静かな葛藤、戦前の記憶に縛られた老婦人の思い、世代を越えた家族の絆と断絶など、多彩な人間模様です。


個々のエピソードの魅力

第一話:青磁の壷の誕生

物語の幕開けは、省造がデパートの注文で制作した青磁の壷が偶然にも特別な出来栄えとなるところから始まります。注文品としては過剰な美しさを備えた壷に、省造は驚きと誇りを感じます。この壷の完成が、彼の人生に予期せぬ影響を与えるとはまだ知る由もありません。青磁一筋に打ち込む省造の姿は、芸術家の孤独と情熱を象徴しています。

第二話:夫婦のすれ違いと壷

定年後に家にこもる夫に苛立つ妻が、世話になった副社長への贈り物として青い壷を購入し、夫に持たせるというエピソード。夫婦の微妙な距離感が描かれる中、贈り物としての壷が持つ象徴的な役割が浮き彫りになります。壷を通じて、夫婦の関係が再考される瞬間が印象的です。

第七話:過去の記憶を呼び起こす壷

戦時中の外務官僚だった亡き夫との思い出を、青い壷を見て語り始める老婦人の姿が描かれる第七話。壷が記憶の引き金となり、過去の栄光と苦悩が鮮明に蘇ります。壷がただの装飾品ではなく、人生の断片を結びつける象徴として機能する場面です。

第十一話:壷が海を渡る瞬間

青い壷がついにスペインに渡るエピソードでは、修道女が45年ぶりに祖国に帰郷する際、贈り物として選ばれます。日本で生まれた壷が異国の地に旅立つ瞬間には、物語全体にわたるテーマである「つながり」と「別れ」が鮮やかに表現されています。


作品のテーマとメッセージ

1. 人生の移ろいと無常観

壷がさまざまな人々の手に渡る中で、それぞれの人生の一瞬を切り取る形で物語が進みます。それぞれのエピソードには、幸福と苦悩、喜びと悲しみが織り交ぜられ、人生の儚さや移ろいゆく時間の中で何が大切かを静かに問いかけます。

2. 芸術と人間の関係性

青磁の壷は、単なる物体以上の存在として描かれています。芸術作品が人々の心にどのような影響を与えるのかを描くことで、芸術と人間の深い関係性が浮き彫りになります。省造が無名であることも、壷が人々に与える影響を一層際立たせる要素となっています。

3. 世代を超えた絆

物語全体を通じて、世代を超えた家族や友人との絆が描かれています。壷が一つの媒介となり、過去と現在、そして未来をつなぐ役割を果たしているのが印象的です。


結論:壷が映す人間の営み

『青い壷』は、芸術が人間の人生に与える影響、そして人間が時代を越えて受け継ぐ思いを描いた珠玉の短編集です。有吉佐和子の卓越した筆力によって、壷を通じた人間模様が鮮やかに描かれ、読む者に深い感動を与えます。人生の儚さ、家族の絆、そして芸術の力に触れたい方にぜひお勧めしたい一冊です。

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