今井悠介の『体験格差』は、現代社会における「体験」の価値と、それを取り巻く格差問題を鋭く掘り下げた一冊です。本書は2024年4月に刊行された新書ながら、すでに多くの読者から注目を集めており、教育、労働、文化消費といった幅広い領域にわたる洞察を提供しています。
今井悠介(著)『体験格差』(講談社現代新書2024)を読みました。部活動や習い事、あるいは家族旅行などの経験が豊富な子とそうでない子がいるという、みなが「当たり前」としていた事実を、社会的な不正義として問題提起し、しっかり調査した上で解決策を提言する、すばらしい一冊です。(続) pic.twitter.com/q6929bdxZU
— 玉手 慎太郎 (@Tama_Goldheart) November 16, 2024
主なテーマと内容
著者は、「体験」がもたらす豊かさを新しい格差として捉えています。収入や学歴といった従来の格差指標では測りきれない、個々人の生活における体験の多様性や質が、人生の満足度や可能性を左右するという議論は、新鮮かつ重要です。
- 「体験」の定義とその価値
本書では「体験」を、「個人が直接的に感じ、学び、記憶すること」と広く定義しています。著者はこの体験が、人間の幸福感や成功にどれほど影響するかを具体的なエピソードとデータを用いて解説します。 - 体験格差の要因
地域、経済力、教育背景、デジタル技術の活用状況など、体験格差を生むさまざまな要素が提示されています。たとえば、経済的に恵まれた家庭では、子どもに多様な体験(留学、趣味活動、アートやスポーツ観戦など)を提供できる一方、経済的余裕がない家庭ではその選択肢が限られる現実が浮き彫りにされています。 - デジタル時代における体験の変化
スマートフォンやSNSの普及によって、「疑似体験」が増える一方で、リアルな体験の質が低下しているという指摘も見逃せません。この点で著者は、デジタル環境が体験格差を拡大させる可能性について警鐘を鳴らします。
「息子が突然正座になって泣きながら…」日本で拡大している「体験格差」の厳しい現実(現代ビジネス)#Yahooニュースhttps://t.co/rxQk6oGisw
— 愚痴猫 (@gutineko1230) November 16, 2024
貧乏人が子供作るとこうなるから、子なしでいこう
評価ポイント
- 問題意識の独自性
従来の格差論に「体験」という新しい切り口を加えたことで、教育や社会政策の分野における議論を豊かにしています。 - 具体例の豊富さ
国内外の事例や、著者自身の体験が随所に盛り込まれており、読者が問題の本質を具体的にイメージしやすくなっています。 - 未来への提言
体験格差を解消するための施策として、社会全体での体験の共有促進、地域の文化資源の活用、教育システムの改革など、具体的かつ実行可能な提言が展開されています。
「昨今、学力だけでなく、学生時代の活動や経験も重視される入試制度が広がりつつある。そんな中、保護者は、我が子にできるだけ多くの”体験”の機会を提供しようと考える。だが、それをすることができる親は、実際にはかなり限られている」https://t.co/heUEV9LxXB
— 松岡亮二『教育格差(ちくま新書)』『東大生、教育格差を学ぶ(光文社新書)』 (@ryojimatsuoka) November 9, 2024
気になる点
一方で、著者が提案する解決策については、「実現可能性」に関する議論がやや不足しているようにも感じます。特に、経済格差を背景にした体験格差を是正するための資金調達や政策の具体案には、さらなる詳細が求められます。
また、都市部と地方の格差については言及されていますが、地方創生との絡みや、少子高齢化社会における体験格差の構造変化については、さらに深掘りする余地があるように思えました。
失敗を重ねて成功確率をあげていくしかないので、試行回数が少ないとかなり不利、というか無理ゲーになる。そして、試行回数の価値は体験を通さないと本当の意味で理解できない。デキない人は「試行回数の少なさ」を理解するのに時間がかかるので、デキる人との格差が広がりやすい。 https://t.co/0h3sfx7QLm
— 山田卓司|ログシー(ROGC)代表 (@rogc_yamada) November 16, 2024
総評
『体験格差』は、これからの社会における格差問題を考える上で、極めて示唆に富む一冊です。「体験」というテーマは多くの人々にとって身近でありながらも、従来は軽視されがちでした。本書は、その重要性を見事に浮き彫りにし、私たちが未来に向けてどのような社会を築くべきかを考えるきっかけを提供してくれます。
おすすめ度: ★★★★☆(4.5/5)
格差問題や教育に関心のある方はもちろん、すべての現代人に手に取ってほしい一冊です。